« 明石大橋通過。 | トップページ | さて、運転再開! »

2009年7月 1日 (水)

祖母の思い出。

両親が共働きだったので、わたしと弟が保育所にいた頃は、祖母がよく迎えに来てくれていた。
既に還暦を迎え、腰は90度に曲がっていたけれど、足腰は強靭だったことを憶えている。わたしと弟をリヤカーに乗せて、保育所から約1km先の祖母宅までを毎日引いて歩いていたから。

祖母の家は、ホタテの養殖業を営んでおり、家の真裏すぐに浜があった。
玄関を入って母屋を抜け、網や浮きなどが吊るされた作業場を通っていくと、すぐに陸奥湾が視界に広がった。
遠浅の海は、わたしと弟の絶好の遊び場。カニやヤドカリ、小魚などを追いかけてはしゃぎまわっていた。
家には、窓が少なく、昼でも薄闇だった。古い畳のにおいと湿った潮くささ、それから古時計の秒針の音が祖母の家を常に満たしていた。

祖母は、よく、わたしにゴマ餅をつくって食べさせてくれた。
やわらかいお餅に甘いゴマのタレが練り込められていて、祖母の手のにおいも少しした。
口に入れるとゴマの風味がいっぱいに広がった。あんまりおいしくてほおばるわたしを見ながら、祖母はしわくちゃの顔をさらにしわだらけにして笑っていた。

それから30年あまり。
上京して、めったに会えなくなり、年に一度か二度くらいしか会えなくなっても、会うたびに祖母はわたしを笑顔で迎えてくれた。
わたしを心配してくれ、わたしを励ましてくれ、わたしを叱ってくれた。
やがて、祖母の最愛の伴侶が亡くなった。
今際の際までよしびとの介護をしていた祖母の姿は、今は看護師となっている妹の瞳にしかと刻み込まれている。


祖母が他界し、わたしの身体の中にぽっかりと穴が空いたようだ。
とても不思議な感覚だった。
食べても食べてもその穴からこぼれおちていくようだ。
お腹が満たされない。
涙も止めどなく流れた。
人間はやはり不思議な生き物だと思う。どうして悲しいときに涙を流すんだろう。
棺の小窓から祖母の安らかな寝顔を覗いた瞬間、滂沱のごとく目から水分があふれでた。
止まらない。
身体の中の穴がどんどん広がっていくようだ。その穴の中から身体を突き上げるようななにかが出てきて、嗚咽を促すように喉元を突き続ける。
身体の中になにものかがいて、わたしの涙腺をわたしの許可なしに搾り上げる。
冷静で落ち着いた大人でいよう、36歳のいい大人が、などという軽薄な思考は一気に崩れ去った。


ほぼ1世紀を生きた祖母から、わたしは一体何を感じ取ったのだろう。
そのぽっかり空いた穴は。
底無の悲哀だろうか。
喪失の代償だろうか。
たぶん、そんなものではないと思う。
それは、いちだんと広がった心だと思う。悲しみは心を押し広げていくものだと思うから。そうやって、人間としての許容範囲を広げていくのだろう。いや、そうしなければいけないと必要にせまられてか。

今はまだ無理だけど、穴の底、しっかり見据えて生きていきたい。


『人様に迷惑をかけるな』

祖母の言葉。
幼いときも、学校に入学したときも、上京したときも、会社に就職したときも、結婚したときも、いつも言っていた。

しっかり胸に刻んで。

|

« 明石大橋通過。 | トップページ | さて、運転再開! »

コメント

私が30年ほど前に経験した時とそっっくりです。私もおばあちゃん子でした。
余り煩わずに亡くなったので、世話になっただけで、何もお返しができなかったことを悔いました。何日も泣けて泣けて、どうしようもありませんでした。目は腫れてしまいサングラスをかけて泣いていました。

悲しみは時間が解決してくれました。思い切り泣くのが供養だと、勝手に思い込みました。

しゅうさんの「思い出」を読んでまた涙が出ました。祖母から与えられた無限の愛を孫や周りにお返しできているかなぁ~・・・思い出させてくれました。

投稿: さくま@夢屋 | 2009年7月 1日 (水) 午後 09時41分

さくまさん。


この仕事の辛さをあらためて身に滲みて感じています。

荼毘にふされ、お骨を拾うところまでは一緒にいられました。それだけでも幸せでした。


なんだか、いろいろなことを考えてしまいました。両親のこと、兄弟のこと、授かれるかもしれないこどものこと。


最近、仏教関連の本も読み始めているのですが…。
生と死。この二つ、まだまだわたしは悩み迷い続けそうです。

投稿: しゅう | 2009年7月 2日 (木) 午後 04時50分

アマチュアの私でも、祖母の死の悲しみから立ち上がれたのは「人形劇」の仲間がいて、公演があったからでした。
泣いていられない!悲しんでいられない!ことが、残された者にとって幸せなことかもしれません。
亡き人を悔やむ時間の代わりに、大勢の人たちを楽しませることで、たぶん許されるのではないでしょうか。

投稿: さくま@夢屋 | 2009年7月 3日 (金) 午前 12時29分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/48320/30361090

この記事へのトラックバック一覧です: 祖母の思い出。:

» 介護用品レンタル情報ネットナビ [介護用品レンタル情報ネットナビ]
介護用品レンタルの情報です。 [続きを読む]

受信: 2009年7月 2日 (木) 午後 06時05分

» よか石鹸 [よか石鹸]
よか石鹸で洗顔してみてビックリ!何と顔のアカが消しゴムのカスのようにポロポロととれるのです。 [続きを読む]

受信: 2009年7月 4日 (土) 午前 06時12分

« 明石大橋通過。 | トップページ | さて、運転再開! »